

『ジェシー・ノーマンの残したものは。』
偉大な歌手ジェシーノーマンさんがこの世を去った(享年74歳)。佐藤しのぶさんも同じ週に亡くなり(享年61歳)、声楽家として何かを書き記したくなった。そう思っている間に、もっとも影響を受けた作曲家、故・武満徹のご夫人、浅香さんもこの世を去ったという知らせも届いたりと、なにやら私を支えてきた存在が一気に居なくなるような、寂しい秋口になりそうだ。 感受性が高い時期に、ジェシー・ノーマンさんがモデルとされている映画『ディーバ』(1984年公開作品)の歌唱場面を繰り返し再生した。リアル・タイムではないものの、のちにフランス映画界の巨匠となるジャン=ジャック・ベネックス監督によって描かれた、アフリカ系の歌手が真っ白なドレスを身に纏い、アリアを歌いあげる姿は私を虜にし、それまでメゾ・ソプラノだった私をソプラノへ導くきっかけとなった。 ノーマンさんが生まれた40年代の南部アメリカといえば、まだ黒人に対する差別も激しかった時代と想像できる。その実態は現在でも多くの映画などの題材として取り上げられ、決して埋もれることのない記憶として歴史に刻まれている。彼女がのちにル